*SAKULIFE*

音楽と桜とミルクティーが好きな社会人が、日々の想い出やお気に入りをしまっておく宝箱。

『私をくいとめて』

私をくいとめて

『私をくいとめて」 

Amazon Primeにて視聴しました。
綿矢りさ作品の映画化です。
 
映画館で観たいと思っていたのですが、観られずじまい。
あっという間にPrimeで観られるようになり、さっそく視聴しました。
 
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すっごく、よかったです……。
 
よかったよかった。
 
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主人公のみつ子は「おひとりさま」生活を謳歌する会社員。
休日にはひとり天ぷらの食品サンプルを作りに出かけたり、サンドイッチを買いに行ったりと、おひとりさまレベルを日々高めながら穏やかな生活を送っている。
みつ子の相談相手は、「A」と呼ぶ自分自身の心の声。
これまでも、みつ子は人生の局面を「A」と対話することで乗り切ってきた。
そんなみつ子が最近気になっているのは、会社の取引先の年下営業マン・多田。
久しぶりの恋愛を前に、みつ子は「A」と対話しながら少しずつ前に進んでいこうとする。
  
主人公のみつ子を演じるのは、のん。
みつ子は31歳なので、のんちゃん31歳には絶対見えないよと思ったけど、映画を観て、これはのんちゃんくらいの演技力がないと絶対に演じきれない役だなあと思いました。
目だけで動きだけで見せる演技が素晴らしいなぁ。
 
そして、「A」役は中村倫也
声だけでわかる中村倫也
声だけでわかる中村倫也中村倫也たるすごさ。
 
綿矢りさ、好きと言いつつ原作未読なのですが、「A」が中村倫也はぴったりなんじゃないでしょうか…。
 

「プッチのワンピの声に微かに元気がなくなっていることを敏感に察知するのはおよしなさい!」

換気のために窓網戸にして観てたのに声出して笑ってしまった。
倫也、笑かすのやめて!!!笑


のんちゃん演じるみつ子の台詞、中村倫也の「A」の台詞は、聞いているだけで感じる綿矢りさワールド。
きっと、原作の台詞そのままの部分も多いんじゃないかと思います。
それをこれだけ演じきれるのはのんちゃんだけだろうなあと思いました。
 
声だけの「A」との対話のシーンも多い作品ですが、どうやって撮影したのかとても気になります。
中村倫也の声だけ聞こえる状態で撮影したのかなぁ。
相手の台詞を聞いて反応が変わるお芝居もあるでしょうし、大変だろうなぁ、と思いながら観ていました。
 
みつ子の恋の相手、多田くん演じる林遣都さんもとても素敵でした。
ただ、(多田だけに)綿矢りさ作品に登場する男性っていつ裏切るか分からないからすっごく警戒しながら観てしまったせいで好意をきちんと受け取れなくてごめんね……!
 
一昨年映画館に観に行った映画『蜜蜂と遠雷』がやっぱり今でも好きで、こちらもAmazon Primeで観られるので最近よく再生ボタンを押しています。
今日もちょうど観ていたのですが、『私をくいとめて』には『蜜蜂と遠雷』にも出演されている片桐はいりさんと臼田あさ美さんが出演されていて驚きました。
 
片桐はいりさんは「勝手にふるえてろ」にも出演されていましたね。
監督が同じ方のようなのでその影響?なのかな。
 
臼田あさ美さんは、『蜜蜂と遠雷』で拝見するまであまり詳しくなかったのですが、とても演技がお上手ですごく素敵な方だなあと思いました。
 
親友・皐月役の橋本愛ちゃんは、ぱっつんおかっぱのクレオパトラヘアがとても似合っていました。
途中ローマが出てきて、のんちゃんが「ブルータス、お前もか」と言っているシーンがあるので、宝塚の『アウグストゥス』を思い出しました。(このセリフは『アウグストゥス』には出てきませんが。笑)
橋本愛ちゃんがクレオパトラヘアなのはローマだから…?なんて思ってしまいました。
着ている服もかわいかったなぁ。
 
橋本愛ちゃんはのんちゃんと『あまちゃん』以来の共演とのこと。
あまちゃん』を観ていないせいで感動が薄くてすみません…。
 
すっごくよかったです。
 
綿矢りさ原作の映画は全部(といっても『インストール』と『勝手にふるえてろ』だけか)拝見しましたが、いちばん好きです。
よかったよかった。
 
君は天然色」は名曲ですね。
 
とてもおすすめです。
 
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ここからは、物語の核心部分に触れていきます。
 

好きな作家は?

  
「好きな作家は?」
と聞かれたら、かならず
綿矢りさ
と答えるのに、最近の作品を全く読めていないことに気づいたのが数か月前。
 
たしかに、最後にこれまで出た作品をすべて読もう!と決めて読んだのは、大学3回生の就活の頃だった気がする。
 
あれから8年。
そりゃ、読んでいない作品が増えているわけです。
 
中学生くらいの頃かな。
小学5年生の時に読んで、意味が分からないままだった『蹴りたい背中』をふと読み返した時に、衝撃を受けた。
なんて、自分が言葉にできないまま抱え込んでいる感情が言語化されているんだろうかと。
 
それ以来、綿矢りさの作品は全部読もうと決めている。
 
綿矢りさ、好きなんだけれど、読むには毎回覚悟がいる。
人生の瞬間瞬間に寄り添って、心の急所を的確に刺してくるから。
 
綿矢作品を読むことは、自分自身の心と正面から向き合うことにつながる。
だから、読むと傷を負う。
 

トラウマの『勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)


 
心に刺してくる、という意味でずっと心に在り続けているのは『蹴りたい背中』なのだけれど、トラウマレベルで心に刃が刺さったまま未だに抜けていないのは、『勝手にふるえてろ』だ。
 
これはもう、わたしにとってみればホラー作品。
 
人は死なない、ゾンビも幽霊も出てこない。
でも、これは言うなれば感情のホラーなのである。
 
たったひとつの台詞で、人の心をどん底に突き落とすおそろしいホラー作品。
こんなこわい作品ほかに知らない。

勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ


 
松岡茉優ちゃん主演の映画も観たけど、そのシーンに辿り着くまでがもう心臓に悪すぎた。
 
辿り着いた後のジェットコースターの急降下具合は凄まじい。
そして、そこからの主人公の選択はもう勢いあまりすぎてわたしにはさっぱり理解できない。
そんなぶっ飛んだ主人公に手を掴まれたまま、すごい勢いで話が進んでいくから、遠心力が凄まじい。
 
でも、わたしがあまりに作中の「たったひとつの台詞」に傷つきすぎな気もしていて、『勝手にふるえてろ』を読んだ人に「あの台詞」の話をしても、その台詞を共有できるか分からないな、とも思ってしまっている。
あの台詞を通して、主人公の良香もどうしようもなく傷ついたけれど、わたしはきっと、あの台詞の刃を自分にも向けてしまったから、こんなにも傷ついてしまったのだと思う。
思い出すだけでつらい。
  
綿矢りさの作品って、刺さる人にはぶっ刺さるんだけれど、刺さらない人には全くよさが分からない作風なんじゃないかと思う。
蹴りたい背中』を初めて読んだ小学5年生のわたしだって、そのよさが分からないままだった。
 
綿矢作品は人の感情や感覚、意識をすごく丁寧に拾い上げてそれを言葉にしているから、自分の心に向き合うことに敏感な人には必要以上に心を貫いてしまうのだと思う。
自分が繊細だ、と主張してしまっているようになってしまってなんだか申し訳ないのだけれど。
 

『私をくいとめて』

感情のホラーとか言っている時点で察してほしいのだけれど、綿矢作品に純粋な恋愛映画を求めてはいけない、と思ってしまう。
少しずつ距離を縮めていくドキドキ感とか林遣都がかっこよくてキュン♡みたいな展開は、絶対に求めてはいけない。
求めたら絶対に火傷をする。火傷どころか絶対に心に深い傷を負う。刺される。
 
……と思いながら、『私をくいとめて』も、いつ感情の墜落が待っているのかとおそるおそる観ていた。
ずっと身構えてたから、すごく消耗した………。
映画観ただけなのに息が絶え絶え。 

「A」という存在

『私をくいとめて』の主人公のみつ子は、「A」という脳内の相談相手がいるという一見ちょっとやばい子ではあるけれど、誰にでも、何か選択を迫られた時に、頭の中の天使と悪魔がささやき合うことはあると思う。
そんな存在が肥大化して、人格を持つようになったのが「A」なのだと思うと、決してふつうの人とは違うやばい子、というわけではなく、「A」の存在は、誰でも持っている心の声の延長線上にあるのだと思う。
 
「A」と暮らしながら、おひとりさまを謳歌しているみつ子だけれど、きちんと働いているし、会社の先輩・ノゾミさんとは多田くんの話ができるくらい仲がいいし、社会での人間関係をきちんと構築している。みつ子はきちんと自分の足で立って生きている。
 
また、多田くんとの恋愛だけでなくて、親友の皐月との友情が描かれているのもとてもよかった。

皐月との友情

結婚して、ローマへと移住した皐月にみつ子は言う。
 
「皐月にとっては懐かしい大昔かもしれないけど、わたしにとっては現在だから。
あの公園の周辺から、わたし一歩も動けてない」
 
この台詞、30手前にもなってまだ実家に住んでいて、実家の自室のテレビで観ているわたしには本当に耳が痛いです!みつ子は一人暮らししてるからえらいよ!!!って思いました。
 
綿矢セオリー的に、友情決裂してしまうんじゃないかとひやひや。
いや、綿矢セオリーってわたしが綿矢りさの何を知っているんだという話なんだけれど。
綿矢作品の主人公ってそういって友達を突き放してしまう印象があるのよ。
 
しかも、年齢的にも、お互いの状況の違いを見ても、決裂してしまってもおかしくない。
でも、無事に本音を言い合えて、よかった。
ほんとにほっとした。泣いた。
 
これからもきっといいお友達でいられるなと思った。

多田くん

綿矢作品にしてはめずらしく、きちんとみつ子が付き合うことができてほんとにほっとした。
よかった。
多田くん実は彼女がいたとかすごい悪いやつだったとかじゃなくてほんとによかった。
 
でも付き合ったところで映画はまだ終わらない。
 
いいじゃん。もう終わろうよ。
 
みつ子は「水の音が好き」って言ってるのに、多田くんが告白した東京タワーめっちゃ煌々と橙に輝いていて色が対照的すぎてなんだか不穏よ!
(考えすぎなのか……?)
 
綿矢りさの手にかかったらせっかく付き合えたのにみつ子が
「別れる!!!!!!!」
って一方的に言いだして別れたりしかねないのよ。
やめて。
付き合えましたよかったねちゃんちゃん♪で終わろう!
 
終わるまで残り18分というところで、思わず一時停止ボタンを押した。
わたしには心臓に悪すぎる。
綿矢りさがハッピーエンドで終わってくれると思えない。
 
多田くん車運転しながらイライラしてる。不穏。
みつ子が謝っちゃう気持ちすごくわかる。
イライラしている人は無条件にこわい。
でも、
「なんで黒田さんが謝るの」
という台詞。
あれは多田くんの本心なんだろうなぁ。
 
残りの18分、何が起きるのかと死にそうになりながら見守る。
ラストはみつ子の自分自身との葛藤と「A」との別れだった。
 
きっと、「A」に言ってもらっていたことを、多田くんが言ってくれるようになったから、もう、「A」は不要、ということなんだと思う。
 
しかし、海の「A」さんどなたか分からないけれど、中村倫也からのバトンタッチは荷が重かっただろうな…と思ってしまった。
中村倫也だとちょっとかっこよすぎたのかな。笑
結局最後まで中村倫也は声でしか出てこない。
とても素敵でした。
 
誰かと生きていくって素敵なことですね…!
(と、独身アラサーが申しております)
 
多田くんが本当にいい子で本当によかった。
 
「ごはんは美味しく炊けましたか?」
の伏線と言うかすれ違いがすごい意味が分かるとすごく素敵な…素敵なのかはわからないけど笑、すごくよかった。
まんまとミスリードされた。
 
ごはん………美味しく炊けなかったんだね………笑
 
みつ子が報われて本当に本当によかった。
 

 
ほかにも、作中に出てくる揚げ物がどれもおいしそうすぎる(食品サンプル含めて笑)とか、
映画ならではの演出がすごくよかった。
ホーミーの伏線も効いてた。笑
 
綿矢りさ原作だけど、安心して観られる作品。
すごく素敵な映画でした。
 
君は天然色」は名曲。
 

 
今秋には『ひらいて』も映画化されるんですね。
持ってるので読んだんだろうけど覚えてない……。
読み直して楽しみにしたいと思います。
 
『私をくいとめて』も読みたいし、読めていないほかの作品も読んでいこう。

私をくいとめて (朝日文庫)

私をくいとめて (朝日文庫)